恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
7年前とは全てが変わってしまった。
東洋合繊の専務になりエリートコースを進む雪也と、没落し『元お嬢様』となってしまった自分。
今の環境がとりわけ不幸という訳ではないが、今の雪也とはまるでバランスが取れないことはさすがの花澄もわかっている。
……それに、自分の心にはまだ環がいる。
環のあの榛色の瞳を思い出すと、胸が軋むように痛む。
7年経っても癒えない、その傷跡……。
自分に会いたいと言ってくれた雪也の気持ちは嬉しい。
けれどもうこれ以上、お互い深入りしない方がいい……。
花澄は店を出た後、雪也がクラスメイト達に呼ばれたのを機にこそっと雪也の傍から離れた。
そのまま急いで品川駅の方へと走り出す。
こんな風に逃げたくはないが、こうでもしないと雪也は自分を離そうとしないだろう。
と息切らせ走りながら一つ目の角を曲がり、その先のコンビニの角を曲がった、そのとき。
「……やっぱりね。こんなことだろうと思ったよ」
目の前に立つ黒い影に、花澄は目を剥いた。
月明りの下、雪也がにこりと微笑んで立っている。
しかしその笑みはどことなく固く、凄みのようなものを漂わせている。