恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
7年前より少し低くなった、テノールの声。
上品なスーツを身に着けたその姿はまさに大人の男という感じだが、その穏やかな雰囲気や澄んだ眼差しは、記憶にあるものと全く同じだ。
花澄は凍ったように彼を見つめていたが、やがてはっと我に返った。
彼の前には、艶やかな紫色のショルダーワンピースを着た美しい女性が座っている。
花澄とは違い、明らかに上質な服を身に着けているその女性は、ワインの入ったグラスを片手に二人を訝しげに見つめている。
先を歩いていた店員が、足を止めた花澄を振り返る。
店員は花澄のもとに数歩戻り、恭しく言った。
「いかがなさいましたか、お客様?」
「……っ、いえ、何でもないです」
花澄は慌てて言い、二人に軽く一礼して踵を返した。
そのまま店員の後に続いて再び歩き出す。
……背に、突き刺さるような視線を感じる。
花澄はバクバクする心臓を必死で宥めながら店員に続いて歩いた。
店員は窓際の予約席の前で足を止め、優雅な仕草で椅子を引く。
花澄は店員に引いてもらった椅子に腰かけながら、ちらりと先ほどの半個室席の方を見た。
……ここからならば、直接は見えないだろう。
それにしても……。