恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
9:30。
役員達がぞろぞろと重役出勤してくる時間を迎え、花澄は新聞を配ったり机を拭いたりと、忙しなく動いていた。
正直、この時間が秘書室にとっては最も忙しい。
花澄の他にもう一人、柴山さんという女性の秘書の人もいるが、今は産休明けで遅刻や早退が多いため、主戦力は実質花澄一人となっている。
花澄は新聞を配り終えたところで奥の給湯室に入った。
冷蔵庫の脇の棚から急須と湯飲みを出し、湯飲みにお湯を一旦入れた後、人数分の茶葉を急須にセットする。
湯飲みが温まったところで急須にそのお湯を入れ、待つこと5分。
「……そろそろいいかな?」
花澄は手早く湯飲みにお茶を注ぎ、お盆に乗せた。
ついでに昨日調達しておいた黒糖を小皿に乗せ、お盆に乗せる。
役員達はそれなりにお年を召しているので皆健康が気になるらしく、柴山さん曰く、この黒糖は健康維持のために数年前から出しているのよ────とのこと。
沖縄の波照間産のものが一番いいらしいのだが、波照間産のものはほとんどスーパーでは見かけず、花澄はいつも銀座にあるアンテナショップまで買いに行っている。