恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



花澄はお盆を片手に、それぞれの役員席にお茶を置いていった。

役員は社長、副社長、取締役が二人の計四人で、社長は外出することが多いが、それ以外の三人はだいたいこの役員室で仕事をしている。


「そういえば花澄ちゃん。今日の午後はヒマかね?」


突然横から声を掛けられ、花澄は慌てて振り返った。

声をかけてきたのは宮澤清吾。森口商事の副社長だ。

宮澤は還暦を迎えたばかりの白髪交じりの男性で、役員の中では比較的温和というか、のんびりした性格だ。


「特に急ぎの用事はありませんが。何かご用でしょうか?」

「今日の午後、ビックサイトで繊維系会社の展示会があってね。商材の情報収集に行こうと思うんだが、一緒に来てくれないかね?」


宮澤はのんびりした口調で言う。

……つまり、荷物持ちとして来いと言うことらしい。

花澄は内心で小さなため息をつきつつ、ニコリと笑った。


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