恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



東洋合繊のブースは青を基調としたすっきりとしたカラーで統一されており、ビジネスバッグを手にしたサラリーマン達があちこちで商談をしている。

ブースの広さも展示設備も、そして人の多さも『さすがトップメーカー』という感じだ。

展示内容は綿や羊毛の自然繊維から衣料用繊維、携帯向けのポリカーボネート繊維、そして航空向けの炭素繊維に至るまで、とても幅広い。

花澄は宮澤の隣で商品の説明ボードを眺めていたが、ブースの隅から見覚えのある人物が歩み寄ってくるのに気付き、眉を上げた。


シックな黒いスーツに、黒縁の眼鏡。

ふわっとした黒褐色の髪は弟である雪也とそっくりだが、花澄を見つめるその瞳はすっきりとした一重で、理知的な光を湛えている。

────月杜賢吾。29歳。

雪也の兄で、昔、花澄や美鈴と『仮婚約』をしていた間柄だ。


「まさかこんな所で君に会うとはね。びっくりだよ」

「お久しぶりです、賢吾さん」


花澄は驚きとともに賢吾を見上げた。

賢吾は昔から学者肌で、弟の雪也とは違い『我が道を行く性格』だ。

昔、賢吾は雪也と同じく花澄達と仮婚約をしていたが、賢吾はそのことをまるで気にしている様子はなく、花澄からしても婚約者というよりは『知り合いのお兄さん』という感じだった。

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