恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~
しかし……。
雪也が専務になったのは知っていたが、賢吾は今何をしているのか?
と思ったのが顔に出たのだろうか、賢吾はスーツの胸ポケットから名刺入れをすっと取り出した。
まるでチラシでも配るように、花澄と宮澤に手早く名刺を渡す。
宮澤は『誰だこの若い男は』的な目で賢吾を見ていたが、渡された名刺を見た瞬間、その瞳を驚愕で見開いた。
「つっ、月杜……っ!?」
凍りついた宮澤を気にする様子もなく、賢吾は花澄に向き直って話し始める。
「僕は今、品川の研究所で所長をやってるんだ。ほら、そこに透析用のフィルターがあるだろ? それに使われてるポリスルホン繊維の限外濾過率を……」
賢吾はにこやかな笑顔を浮かべ、楽しそうに話す。
しかし突然専門用語を出されても、正直わけがわからない。
この空気を読まない感が賢吾らしいといえば賢吾らしいが……。
花澄は慌てて声を上げた。