恋獄 ~ 白き背徳の鎖 ~



花澄は叫び、仰け反った。

……突然何を言い出すのか、賢吾は。

花澄はぶんぶんと首を振り、慌てて言った。


「私と雪也さんは、そんな関係じゃないですっ! まだ再会しただけで、その……っ」

「……え、そうなの?」

「それに……、今の私と雪也さんでは、釣り合いが取れませんし。雪也さんには雪也さんに合った人が……」


と言いかけた花澄の声がみるみるうちに萎んでいく。

……胸の奥から湧き上がる、切ない痛み。

自分で言いながら、自分の言葉に傷つくなんて……。


賢吾は俯いた花澄を無言でじっと見つめる。

……花澄の心を見透かすかのような、理知的な鋭い瞳。

やがて賢吾はゆっくりと口を開いた。


「……確かに雪也はこれから、東洋合繊の重鎮になって社員達を率いていく立場だ。まだ正式発表はしていないが、父も祖父もそのつもりだ」

「…………」

「自由気ままにやらせてもらった僕の代わりに、あいつは親族の期待を一身に背負ってエリートコースを歩いてきた。昔からそうだったけどね……」


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