背徳の香り
「だめ。ここへは彼ときているから」
「ああ、そうなんだ」

動じた風もなく、彼はわたしへ顔を近づける。
懐かしいコロンの香りが、ふわりとわたしを包んで目眩を起こさせた。


「あの頃は、俺の彼女がいつ探しにくるかと内心はらはらしていたが」

わたしの耳もとへ唇を寄せてささやく。

「今度は、きみの彼氏がいつ探しにくるかな……?」


彼との距離をあけようと、わたしは両手をあげ、彼の胸へと手のひらをあてた。
けれど。
彼に触れたせいで、忘れていた官能的な痺れがぞくぞくと身体の中心を這いあがる。


優しい彼を裏切りたくない。
それなのに、両手に力が入らなくて。
強引な彼を押しのけることができなくて。


わたしは、潤む瞳を伏せていた。



End
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