ただ、逢いたい



その中で、1つだけお願いされたことがある。




「返事はいつまでも待つ。
だけど、手は繋いでもいい?」



「え……?」




それは、本当に急なお願いだった。


そんな素振りも見せずにいた彼が、急に言い出したこと。


人前で手を繋ぐことに抵抗があるあたしは、驚きと恥ずかしさで返事が出来なかった。




「お願い。
それだけは許して欲しい。
それ以上のことは、我慢するから」




彼の目が必死だった。

真剣だった。


真っ直ぐにあたしだけを見るその瞳に、ダメとは言えなかった。


気付いたら、あたしは頷いていた。



その時の彼は、本当に嬉しそうにはにかんだ。


その表情にも、ドキッとした。




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