ただ、逢いたい
騒がれなくなった理由を本人に聞くと、笑いながらそう言われた。
あの人たちが、それだけで簡単に引き下がるだろうか。
もっと冷たく、酷いことを言ったのではないだろうか。
でも、上司だからその辺は気を付けて、上手くやったのだろう。
なんとなく、この笑顔が怖い気がするから。
「朝井さん、ごめん!
これ、お願い!」
ある日、定時近くなった頃、沙希さんに言われた。
「今日中ですか?」
「そう。
定時までに終わる予定だったんだけど、間に合わなくて。
私、このあと出張だし」
申し訳なさそうに言う。