ただ、逢いたい
動かそうとしても、1歩が出ない。
立ち去らないと、と気持ちばかりが焦る。
「風華、だよな?」
足が動く前に、手首を掴まれて完全に捕まってしまった。
念を押すように聞かれた声は、確実に“彼”のものだ。
だから、尚更だ。
目を合わせてはいけないし、逃げないといけない。
でも、手を掴まれているから、逃げることが出来ない。
「顔、上げて」
優しい声でそう言われるけど、上げられない。
体全体が固まってしまって、動かない。
「風華っ!」