君がいるから―番外編―
唯、彼女の小さな手は温もりがあまり感じられず、温めるように自身の両手で包み込む。
茶がかった柔らかな髪、白い肌、長い睫。
可愛らしい茶がかった黒い大きな瞳は、今―――俺を映してはくれない―――。
流れていく時を刻む音―――。
これを幾度聞けば、彼女は俺を見てくれるのだろうか。
頬を桃色に染めて恥ずかしそうに俯く姿が印象深い彼女は、白いシーツが丁寧に敷かれたベットの―――上。
普段桃色に染められた頬は白く、柔らかそうな形のいい唇までも薄い。
目を覚ましてくれるのか…。
握っている手に更に力を込めて瞼を閉じ、無事あるようにと唯、願わずにいられない。
「そんなに心配せんでも大丈夫じゃよ」
背後から肩に手を置かれ、優しく語り掛けてきた人物に言葉を返す。
「シェヌ爺のことを、信用してないわけじゃないんだ…。ただ」
「分かっておるよ。お主が考えておることぐらい」
こっほっほっと声を小さく上げながら笑う、シェヌ爺。
そんな笑い声に少し気持ちが落ち着いてゆくのは、この人の纏う雰囲気がそうさせてくれてるのかもしれない。
「ただなアディル…」
スッと俺の横に移動してきたシェヌ爺を見上げると、彼はあきなを見下ろしたまま口を開いた。
「この娘は違う―――分かっておるじゃろ?」
シェヌ爺の言葉に、一瞬、彼女の手を握り締める指先が震えたを、この人はきっと気づいている。
「あぁ…分かってる…。あきなは…」
俺の言葉に反応するように、手の中で微かに震え動く小さな手に力を込めた。
「分かってる…さ」
瞼を下ろし顔を顰めたと共に、シェヌ爺のしわくちゃな手が数回俺の肩を叩き、この場から離れて行った。
シェヌ爺には隠し事は出来ないなと、頭の片隅で思う。
徐々に温もりが戻り始めた彼女の手を握り締め、そっと持ち上げ自身の拳に額を預け目を閉じた―――。