君がいるから―番外編―



「キャッ!!」

 耳障りな甲高い声―――。
その瞬間、重たく閉じかけていた瞼が一気に上がり眠気が飛び、次第に眉間に皺が深く刻まれていくのが自分でも分かる。
 足音を立てないよう、隣の部屋に繋がる扉へと近づき隣を窺った。

「うわっ本踏んじゃっ…た」

「痛っ…角で掌ひっかいちゃった…」

 視線の先には、床に山積みしている本達を踏んでは、山を崩しかねない動作の数々でうろうろとしている影。
1人、騒がしげに人の部屋で暴れている―――声からして"女"だと確信する。
 薄暗いせいもあるのだろうが、これ以上本達を踏みつけられてはたまらない。

「めんどくせー…」

 小さく舌を打って、直ぐ傍に積まれた一番上の本を一冊手に取り、"俺の領域に足を踏み入れた侵入者"へ近づく―――。

「勝手に人の部屋に入って何してんの、あんた」

「ひぃーーーっ」

 背後から声を掛けると"侵入者"が甲高い悲鳴を上げたせいで耳が痛い。
耳鳴りがして、眉間に力が更に加わっていく。
 そして、目前の人物がゆっくりと振り仰ぐ。
 振り返った"女"の酷く脅えた表情が、薄暗い中に慣れている俺の目に映り言い放つ。

「うるさい…ってか、あんた誰」

 俺が放った言葉に気づいているのかいないのか、目前の人物は俺を見据えてくる"女"の視線が不快でたまらない。

「なに? 喋れないわけ?」

 不快感を含んだ声音でそう言い放つも"女"は反応すら見せない。
警戒を含めた瞳のまま、俺はその場から離れる。
 動いたことで"女"の視線が俺の背を追ってくる気配を感じ、不快でたまらない。

 ある場所で一旦足を止め、いつぶりかとなる目前の陽を遮っていたもの布地を一気に引き開いた。
部屋中に広がっていたひんやりとした空間に、暖かな光が差し込む。
 普段慣れていない暖かな光が眩しすぎて目を細める。

 久しぶりだな…。

 長く浸っていることもなく振り返り、陽の光で姿が露わになった"女"との距離を縮め口を開く―――。

「もう一度聞く。あんた誰」

 何なんだこの女…見慣れない服。
こんな女中…城にいたか―――?

 互いに互いを見つめ合う。
少し茶色がかった瞳に―――次第に俺は―――。

 ハッとそこで、いつの間にか我を忘れていたことに気づき、再び女に言い放つ。

「人の顔じろじろ見ないでくれる」

 俺らしくも無く少し声が上擦った気がして、少し焦るが表情は変えない。
この"女"には気づかれていないといい。

「ごめんなさい! あまりにも綺麗な色の瞳だなって思って…つい」

 綺麗…? 何言ってんだこの女。
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