君がいるから―番外編―
顔を背け、手にしていた本を持ったまま窓際にあるソファーへと足を向ける。
目が冴えた…こいつのせいで…。
定位置である場所に腰を下ろし、いつもの体勢――足を組んで背を預け表紙を開いた。
………。
………。
何なんだこの女…本に集中出来ないだろうが。
「なに、言いたい事あるならはっきり言ったらどう。っというか、とっとと出てってよ。そんな所で突っ立ってられたら気が散る」
感情を込めない声音に対し、一瞬だけ女はたじろいだ気がしたが、気にせず頁を捲った。
「ごめんなさい…。あっあの~」
恐る恐る問いかけてきた声を無視し、頁をまた捲る。
「あの…一つ聞いてもいいですか?」
とっとと出てってくんないかな。
この部屋に、俺以外の人間が存在していることが不快でたまらない。
「失礼ですけど…女性の方では…ない…ですよね?」
唐突に投げかえられた言葉に、思わず頁を捲る指の動きが止まり、視線を本から突っ立ている人物へと移すが、すぐさま本へと戻す。
「この声が、あんたには女の声に聞こえるわけ? 相当耳がイカレてるみたいだからシェヌっていう医者の爺さんがいるから診てもらったら」
何を聞いてくるかと思えば、馬鹿じゃないのかこの女。
長い髪の隙間から女へ目だけを遣ると、女は眉間に皺を寄せ始めた。
「用がないならさっさといなくなってくれる。邪魔だよ、あんた」
早く出てってくれと、それだけを願わずにはいられない俺の心情。
だけど、俺の口は止まることは無く―――。
「だいたい人の部屋に勝手に入るなんて、常識が無さすぎるでしょ。でも見た感じそう見えないこともないか。あんた、教養身につけてなさそうだし」
「なっ!!」
「大声出すんだったら、部屋出た後に好きなだけ出して」
これだけ言えば、さすがに出て行くだろうと想像したが―――未だに同じ場に突っ立ている侵入者の女。
「あの…」
性懲りも無くまた問いかけてくる女に増して行く苛立ち。
「何だ、まだいたんだ。邪魔って言ったでしょ」
こうまで言われて、女は動かずにはいられないだろうと先を読み、口を再び開きかけた時―――。
コツコツコツ
耳に届く靴音にやっと出て行く気になったのかと思ったのも束の間、力強く床を踏む大きな足音が予想に反して向かう先は―――。
頬に暖かくて柔らかな感触がしたかと思えば、突然、自身の意思とは関係なしに上を向いた顔。
予測出来なかった出来事に、驚きのあまり不覚にも目を大きく見開いてしまった―――。