君がいるから―番外編―


 流れた長い髪の隙間からほんの少し見つめ合った後、女は何かを振り払うかのように頭を振る。
そうして、顔を顰め俺を睨みつけてきた。

「ちゃんと人の目を見て話をして。初対面の相手なら尚更っ。それにもう少し言い方ってもんがあるでしょ!?」

「勝手に部屋に入ったのは私が悪かった…ごめんなさい。でもノックしたんだからね!? それでも何の返事をしなかったのはあなたでしょーが!」

 この女の瞳は―――俺には。

 スッと女から目を背け、頬を包む俺とは真逆の体温の女の手の甲に自身の掌で包み、剥がし下ろさせた。
 そして、何事もなかったかのように、再び本へ目を落として意識を持っていく。

「…あのさ」

「それだけでしょ、言いたい事。だったらもう用は済んだだろ」

「人の話聞いてなかったでしょ」

「…うるさい…とっとと出てけ」

 本当にうるさい…1人にしてくれ。
本を読むふりをして、女が出ていくのをひたすら待ち続け、女はそうした後に小さく息を吐き、部屋の扉へと足を向けたのを髪の隙間から姿を追う。
 だが、扉の取ってに手を触れたはいいが、こちらに何故か振り返った女。 


「ごめん、もう一つだけ聞きたいことあるんだけど…」

「………なに」

 何を俺に聞きたいことがあるんだ、この女―――。
とっとと出て―――。

「歌…歌がね、聞こえてきたんだ。それが気になって…勝手に足がここに向いてて…。それで、歌ってる人が何故だかどうしても気になっちゃって、部屋に入ったの」

「………」

「…あなたが歌ってたの?」

 今…こいつ…何を言った?

「違う…か。聞き入っちゃうほどすごく綺麗な歌声だったなぁ…」

 まさか…な、ありえない―――そんな事。

「あっそ…」

「お邪魔して勝手なこと言っちゃってごめんなさい」

 今度こそ、扉が開けられる音が耳に届き、肩から力が抜けた―――だが。

「あのっ最後に1つだけ聞いていいかな?」

 何なんだ…こいつは。
最早、怒りを通り越したため息しか出てこない。

「ハァ…何」

「あなたの名前、教えてくれない? 私は山梨あきな。しばらくこのお城でお世話になることになったの」

「聞いてない。そんなこと。だいたい何故、俺があんたに名前を教えなきゃいけないわけ?」

 俺の空間を掻き乱して、質問攻め、頼んでもいないのに自己紹介。
どれだけ自分勝手なんだ、この女。


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