お弁当の時間。
「おい、お前…それはさ、」


「じゃ、私、帰るね。」

何か言いかけた健介を遮って、私は教室へ帰ろうと立ち上がった。


「待てって、桜!話を…」


その腕を、健介が掴んで引き止める。

「離して!」

「嫌だ。」


振りほどこうとするけど、男の人の力から、そう簡単に逃げる事なんかできない。

「離してよ!」

健介の声も、だんだんと荒くなる。

「嫌だってば!」


「どうして?!」

「行くなって!話を聞けよ!」


「嫌だ!」

私は、やっとの思いで健介の腕を振りほどき、走って逃げようとした。


「待てって!」



階段の踊り場。私は逃げ道を失った。



「どうして掴まえるの?」

こぼれ落ちる涙は、止まることがなかった。


「どうして…一人で泣かせてくれないの?」










長い沈黙。



私の、鼻をすする音だけが踊り場に響く。


「だからさぁ、勘違いすんなって…」


溜め息混じりに、健介が沈黙を破った。
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