アラビアンドリーム~砂漠に咲いた一輪の薔薇~
 新しい主治医の先生も、前にお世話になっていた先生の後任で、優秀で腕の方は確かな先生のようだったが、前の先生が40代の落ち着いた年齢に比べて今度の先生は30代前半と若く、まだ人生経験も乏しく、由奈の心のケアまでは気配りのいかない先生で、信頼関係が築ける感じでもなかった。

 その状況で、「今度の薬が効かなくなったら非常に厳しい状況になるかもしれません」なんて坦々とした表情で言われたので、その衝撃は大きかった。

「日進月歩医学は進歩していますから、近い将来きっと新しい薬が見つかると思いますから……。今の治療を頑張っていきましょう……」

 由奈の微妙な表情と心理状態に気付いて、慌ててフォローするような事を後から一生懸命言って来たが、後の祭りと言うのだろうか……。もう心には響いて来ない。由奈にとってはただの気休めにしか聞えなかった。

 薬の認可には膨大なデーターと、認可までかなりの時間を要する。この状況で間に合うようには思えない……。

 死の恐怖は計り知れない。自分以外誰も分からない心の痛みと苦しみと恐怖と絶望……。その心の中は、家族でさえ分からない。
 昼間でも夜でもその恐怖からは逃れられない……。特に夜はつまらない事ばかりが頭の中を駆け巡り、眠れない日々を送る。夜遅くまでぼんやりネットをする日々……。

 そんな時に、偶然ネットサーフィンして見つけた『アラドオリウス(幻想の滝)』
 エルラバドス王国の政府観光局のページだった。王の許可を得て、たった一枚だけ公開した画像だそうだ。今まで見た事のない、まるでこの世の物とは思えないような、美しく幻想的な場所だった。
 王族と神官意外は立ち入れない場所だそうだが、せめて近くに行ってみたい……。

 ――もしこの先希望がないのなら、自分に残された時間が残り少なくなっているのなら、是非行ってみたい。一目この目で見て見たい……。病状が悪化して、ベッドに括りつけられる状況になる前に……動けるうちに。
< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop