月のあかり
プロローグ
「ねえ、すごくきれいだね」
彼女は、まるで数メートル先に浮かんでいるような見事なほどの満月に向かって、白くて細い腕を伸ばした。
「そんなことしても届かないよ」
ぼくは呆れて、無邪気な子供に諭すように言ったけれど、パン食い競争で反則して手を伸ばす子供のように、彼女が本当にあの月を取ってしまうんじゃないかって、不覚にもちょっぴり心配してしまった。
「ねえ、あの満月が半分になったら、直樹さんはどう思う?」
今度は月に向かって背伸びをし、いい匂いでも嗅ぐように鼻先を突き出していた彼女が、ニコリと微笑んで振り返りぼくに訊いた。
「半分て半月のこと?」と、ぼくが訊き返す。
「そうよ」
「それじゃあ満月よりかはムードが無い気がするなあ」
「なんで?」
彼女は不思議そうにぼくの顔を覗き込む。
「だって半分しかないから、魅力も半分じゃん」
ぼくが、当然だろ? という感じで言うと、彼女はちょっとスネた表情に変わった。