月のあかり
いや、待てよ。
頭の中では再び自問自答が繰り返され、彼女の言った言葉を咄嗟に思い出す。
『好きでもない人とお酒を飲んで、お話し相手するのって‥‥‥』
ならばいまぼくに胸の内を打ち明けるように話をしているのは、辛くはないってことのはず。
ひょっとして、彼女もぼくに少なからずの好意を、密かに抱いてくれているのだろうか?
高額の宝クジが当選した人は有頂天になるより、逆に恐いくらいに冷静になることで、パニック状態に陥るのを本能的に回避していると言う。
いままさに、ぼくはそんな心境で落ち着きを払い、いつもの気恥ずかしさも忘れて、あかりのことを見つめ返していた。
「もし本当に辛いと感じるなら、自分に無理しなくてもいいと思うよ」
暫しの沈黙を破ってぼくから口を開いた。
「‥‥はい」
今度は嬉しそうとも悲しそうとも取れる微妙な声のトーンであかりは答えた。
「どうしても続けなきゃいけない理由はないんでしょ?」
いつの間にかぼくは、辞めさせることをけしかけるような言い方をしていた。
でも彼女は嫌悪な反応をする訳ではなく、むしろそうやってぼくに背中を押して欲しかったように、今度は吹っ切れた表情で頷いた。
「うん、ないです。全然ない」
そう言って小さく控えめに微笑んだあかりは、今日見せた最高の笑顔だった。