月のあかり
「いや‥‥別に、なにも考えてないよ」
そんなぼくの素っ気ない言い方に対して、満央は追撃するように言う。
「さっきの高梨さんのこと気にしてるの?」
彼女の忌憚ない聞き方に狼狽させられたぼくは、目の前の交差点の信号を見落としてしまい、慌ててブレーキを踏んだ。
車は停止線を越え、横断歩道の3分の1ぐらいまで食い込んで停止した。
歩行者信号が青になり、突き出したぼくの車を避けて横断する人達から、冷たい視線が運転席のぼくに向かって集中砲火のように浴びせられた。
ぼくは「すみません」という素直な謝罪の気持ちと、「こっち見るなよ」という傲慢で反発的な気持ちが混同したまま、ぎゅっとハンドルを握り締めて俯いた。
「もぉ、安全運転してよぉ」
満央は叱るように言いながらも、ぼくの気持ちを察したように、あははっと笑った。
「気にしなくてもいいよっ。さっきも言ったけど、お姉ちゃんの元カレなだけだから」
「でも、やけに親しそうだったじゃん」
ぼくは開き直って訊いた。
「お姉ちゃんと付き合ってる頃は、時々家にも遊びに来たりしてたから」
「ふーん‥‥‥」
「なぁに? ヤキモチやいてるの?」
満央は子供地味た嫉妬をしているぼくを見て、楽しんでいるようだった。