月のあかり
満央の言葉に促され、ぼくらは路肩に止めた車から下りて、駅前の大通りのカップルで賑わう歩道を腕を組んで歩いた。
特に何の用事があった訳でもない。
ただそうしてごく自然なスキンシップをはかることが、今の二人にとって必要であり、大切なことなんじゃないかって、何となくお互いに気付いていたのだと思う。
「ねえ」と満央が呼び掛ける。
「なに?」とぼくが聞き返す。
「あははっ、なんでもない」
「なんだよ」
まるで恋愛小説の主人公のような、のぼせた二人の会話。
満央は恥ずかしそうに微笑み、甘えたふうに組んだ腕に力を込めた。
そんな他愛もないやり取りを2、3度繰り返した後、満央は目をパチパチさせてこう言った。
「ねえ、ウチに遊びに来ない?」
彼女の突拍子もない申し出に、不意を突かれてびっくりさせられることはしばしばあったけど、今度ばかりは本当に驚いた。
「えっ、いいの?」
ぼくが躊躇っていると、「イヤなの?」と満央は悲しそうな顔を滲ませながらも、大人びた微笑みを作って見せた。
その顔はいつもの屈託のない満央の笑顔ではなく、さっき見せてもらった写真に写っていた彼女の姉である『舞』そのものだった。