月のあかり
 
『お姉ちゃんと付き合ってる頃は、時々家にも遊びに来てたりしてたから』
 
 満央がそう言っていたように、高梨が満央の家に出入りしていた間柄なら、当然ぼくが満央の家に招かれてもおかしくない。
 
 客観的かつ冷静に考えれば、何も高梨に対してそこまでの対抗意識を持つ必要など無いだろう。
 だけど、ぼくがいまこのチャンスを逃したら、この滑稽な自意識の渦中で、明らかにヤツに一歩も二歩も引けを取ってしまうような気がした。
 
「うん、行くよ」
 
 堅苦しいニュアンスで返事をした後に、「行かせて頂きまーす」と茶目っ気を出した言い方を付け加えると、満央は「よろしい」と言ってコクリと頷き、あははっと笑ってまたぼくの腕を引っ張った。
 
 そんなぼくらの姿は、行き交うカップルと賑わう街並に同化し、誰から見てもごく自然な恋人同士に見えると思う。
 きっと見えるに違いない。
 
「あっ、直樹さん!!」
 
 しばらく駅前の繁華街を歩いてから車の側まで戻ると、満央がびっくりした声を上げた。
 路肩に寄せて路上駐車していたぼくの車の脇には、凛々しい顔立ちの婦人警官が、斜めに脚を開いてすっくと立っていた。
 
「すみません、すぐ出します」
 
 スーツ姿のぼくと、地味なカジュアルファッションの満央が腕を組んで歩いて来たのを見て、目を丸くしていた婦人警官が何を思ったのか分からない。
 
 幸いにもタイヤに白いチョークで線を引かれただけの警告で許してもらい、ぼくらは車に乗って逃げるようにその場を走り去った。
 
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