月のあかり
      10
 
 
 満央の家は閑静な住宅街にある、大きな一軒家だった。
 
 いつも彼女を送る時は、一本手前の路地までだったから、初めて彼女の家を見上げて、その豪華さに驚いた。
 表札の名字は本当に『望月』だった。
 
「すごいね、満央の家ってお金持ちなんだね」
 
 素直な感想を述べただけとはいえ、下世話で品位の欠けた言い方をしてしまった。
 けれども満央は不快な表情を見せるどころか「婿養子に来る?」なんて粋な冗談で返してくれた。
 
 玄関ドアを開け「ただいま」と習慣的な言葉を満央が叫ぶと、まだ40代前半ぐらいの小綺麗な女性が部屋の奥から姿を現した。
 
「あっ、‥‥いらっしゃい」
 
 お帰り、と満央に言った後、その女性はぼくに向かってそう言い、ぎこちなく会釈をした。
 
 彼女が満央の母親であろうことは、よく似た目元で容易に推察出来たけれども、その若々しい雰囲気に驚かされた。
 しかし驚いていたのは満央の母親のほうも同じで、事前に車中から「彼氏を連れて行く」と満央が連絡を入れていたものの、明らかに娘と歳の離れたスーツ姿の男性を連れて来たのだから無理もない。
 
 その目を丸くした様は、さっきの婦人警官と同質のものだった。
 
 
「なんてご挨拶してよいやら‥‥」
 
 満央の母親は、そう困ったような言葉を繋げると、奥のリビングへと案内してくれた。
 
< 111 / 220 >

この作品をシェア

pagetop