月のあかり
「終電の時間は大丈夫なの?」
23時半で仕事が終わりということは、午前0時ぐらいまでの電車に乗らなければ帰宅出来ないということだろうか。
とりあえず駅まで歩きながら、数分間でも彼女と話が出来ればいいやと思っていた。
「本当は0時半ぐらいが終電なので、まだ大丈夫なんです」
「そうなんだ」
よく聞くと、翌日にファーストフードでのバイトがある時は朝が早いので、終電の時間を予め早めに偽って申告し、少しでも早く帰れるようにしていたらしい。
「明日はファーストフードのバイトはないの?」
疑問に思って聞くと、あかりはコクリと頷いた。
「嶋さんこそ終電の時間は大丈夫なんですか?」
今度はあかりのほうから心配そうに尋ねてきた。
「ああ、大丈夫だよ。ぼくも終電は同じぐらいの時間なはずだから」
そうは言ってみたものの、自分が乗る終電の時間なんて、はっきり覚えていなかった。
つまり、まったくの当てずっぽうの答えだった。
「じゃあまだ1時間ぐらいはあるから、お茶でもしていこうか?」
思い切って誘ってみると、あかりはまた小さくコクリと頷いた。
ぼくらはそのまま駅の近くまで歩き、深夜まで営業している小洒落たアンティークな喫茶店に入った。