月のあかり
 
「アルテミスでしょ」
 
 記憶の引き出しをこじ開ける事が出来ず、モゴモゴと口籠もっていたぼくに、満央は助け舟を出すように答えてくれた。
 
「そう、それ。そのアルテミスってのが、月の女神なんじゃないの?」
 
 ぼくは精一杯のうら憶えで、知ったか振って言ってみた。
 
「うん、アルテミスも月の女神なんだけど、もっと昔の神話では、セレーネーっていうのが月の女神だったんだって」
 
「セレーネー?」
 
 満央の話では、アルテミスにしてもセレーネーにしても、数あるギリシャ神話やヨーロッパ神話に登場する、諸説紛々な月の女神のことで、その容姿、様相は、時にグロテスクな怪物姿の恐怖の存在だったり、清楚な絶世の美女で、切ない悲話のヒロインだったりもするらしい。
 
 この劇の台本は、そんな神話の諸説を要約し、演劇風にアレンジしたものだということだった。
 
「満央のお姉ちゃんは、この劇に出てたんだ?」
 
「出てたよ」
 
「何の役で?」
 
 満央の返事を待つ前に、ぼくは自分で台本の一番最初のページを開いた。
 そこには配役と出演者の名前が記されてあった。
 
 
 
《セレーネー…望月 舞》
 
 
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