月のあかり
『そうか、やっぱり‥‥ 満央のお姉ちゃんが、月の女神の役だったのか』
ぼくは心の中で呟き、隣の行に目を移した。
《エンディミオーン…高梨 裕也》
その氏名を目で辿った瞬間、素直に驚愕した。
今日、突然ぼくの前に現れた、得体の知れない挑戦的なグラディエーター。
満央と舞の狭間に連結する、そんな奇妙な繋がりの存在が、こんな所に原点をなしていたとは。
ぼくは反射的、あるいは拒絶的という言葉が符合するような速さでページを捲り、何も気付いていない振りを装って、台本をパタンと閉じた。
それは満央に対しても、そして自分自身に対しても一瞬の盲目を装った閉鎖的な振る舞いだった。
隣にいる満央は、ぼくのことをじっと見つめていた。
「何の役で?」と尋ねたぼくの問い掛けに答えようとはせず、配役のページにあった舞や高梨の名前を発見したぼくの敏感な反応を、見透かしたように観察しているのだろうか?
「あっ、コーヒー飲むでしょ?」
まるでこの間を嫌うように、満央は立ち上がって部屋を出た。
ぼくは、ためいき色の部屋で、一人ぽつんとベッドに座り待つことになった。
手持ち無沙汰のぼくは、満央に見られていたという、いつの間にか背負い込まされていたプレッシャーから解放されたこともあり、再び手に持った台本を開いてみた。