月のあかり
どんなストーリーなのか。
少しでも台本の文章に目を通そうとした途端、ぼくの携帯電話がけたたましく鳴った。
着信番号を見ると会社からだった。
『なんだよ、今日に限って‥‥‥』
ぼくは心の中で呟いた。電話に出ると、以前、取引先に納品したパチンコ機の故障のクレームが会社に入り、すぐに現地に部品を持って修理に向かえとの、上司からの連絡だった。
最近は家電機器と同じように、滅多に故障などのトラブルなど無いものなのだが、ごく希にこういった緊急な仕事が舞い込んで来たりする。
しかも今日は営業先から満央とのドライブデートに発展した為、上司宛てに、自宅へ直帰する旨の連絡を入れ忘れていた。
「お待たせっ」
満央がトレイにコーヒーカップを乗せて、部屋に戻って来た。
「ごめん、満央」
ぼくは、会社から連絡があった事と、急遽仕事に向かわなければならない事を告げた。
「‥‥‥」
突如、暗雲が立ち籠めたように笑顔が曇り、眉間にシワを寄せながら眉を下げた満央の顔は、いままで見たこともないほど悲しげで、落胆した表情だった。
それでもすぐに気丈に振る舞うように「そっか、仕方ないよね」と伏せ目がちに言った。
「本当にごめんね。仕事が終わったら連絡するから」
「‥‥うん、わかった」