月のあかり
 
 満央はコーヒーカップの乗ったトレイを机の上に置くと、力尽きてしな垂れるようにベッドに座った。
 
 ぼくは満央に手を差し伸べて立ち上がらせると、ためいき色に染まるこの部屋の真ん中で、ギュッと強く抱き締めた。
 なぜかその時、風もない室内で満月のタペストリーが、ひらりと揺れたように見えた。
 
「にゃあ」
 
 すると今までにも何度か聞いたことのある、哀愁を帯びた満央の不思議な反応。
 
 猫のように鼻に掛かる声で満央が鳴いた。
 
 あるいは《泣いた》のかも知れない。
 
 きっと心の底で。
 
 
 ぼくは後ろ髪を引かれる思いのまま、満央の部屋と《ためいき色》の部屋を後にした。
 
 
 
< 123 / 220 >

この作品をシェア

pagetop