月のあかり
第6章 二人のベンチ
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 その夜、ぼくが仕事を終えたのは23時過ぎだった。
 
 思いのほか手こずった修理作業は、悪戯に時間を浪費させていた。
 その間、満央からぼくの携帯電話に着信があったけど、作業の傍らに電話に出ることが出来なかった。
 何通かの着信履歴の後に、メールの着信が入っていた。
 
『何時になっても構わないから、迎えに来てね。家の前で待ってるよ』
 
 ぼくは慌てて営業車に飛び乗り、猛スピードで満央の家に向かった。
 途中、特に深夜にはスピード違反の取り締まりが厳しい街道に差し掛かったけど、家の前とはいえ、暗い路地に寂しげに佇む満央の姿を想像すると、アクセルを踏み込まずにはいられなかった。
 
 やがて40分ほど掛かって満央の家の前に着くと、車のヘッドライトに照らし出された路上には、絡まるツタも無い殺風景な添え木のように、茫然と立ち尽くす満央の姿が浮かび上がった。
 
『家の前で待ってるよ』とメールが入ってから、すでに5時間以上経過していた。
 いったい彼女は、ぼくが戻って来るのを、何時間こうして待っていたのだろうか。
 
「満央!!」
 
 車を下りると、彼女の側に駆け寄った。
 しかし満央はロウ人形のようにピクリとも動かない。
 近づいてよく見ると、満央は後ろのブロック塀に背をもたれて、目を瞑っていた。
 
「満央、満央」
 
 揺するように肩に手を置くと、ぴくっと反応して片目を薄く開けた。
 
「あ‥‥ やっと来たね」
 
 満央はそう言ってニンマリと微笑み、眠そうに目を擦った。
 
 
 夜中に、こんな所で立ったまま眠るなんて‥‥‥ 
 
 
 そんないじらしい行動に応えるべく、ぼくは、ためいき色の部屋で抱き締めた以上の強い力で、再び彼女を自分の腕の中に包み込んでいた。
 
 
「あはっ、そんなに力入れたら痛いよっ」
 
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