月のあかり
 
 身体を捩らせながら満央が言った。
 
「ごめん、ごめん」
 
 腕の力を弱めると、満央は顔を上げて眠気を振り払うように目をパチパチさせた。
 
「ねえ、直樹さん。行こうよ」
 
「えっ、行こうって‥‥ どこに?」
 
 突拍子もない問い掛けに、ぼくは戸惑った。
 
「月を見にだよっ」
 
 そう言って満央は夜空を見上げた。
 しかし今夜の空は、どう見てもぼんやりと曇っていて、月どころか星ひとつ見えない。
 
「月なんてどこにも出てないよ」
 
「大丈夫。雲が途切れて絶対出るから」
 
 なぜか満央は自信満々に言い切って、ぼくの腕を引っ張った。
 
「でも、門限大丈夫なの?」
 
 もし本当に月が見たいなら、こんな夜中にわざわざ遠出する必要もないだろう。
 ぼくは、満央の家の前のこの場所で、雲が途切れるのを待とうと提案した。
 
「ダメだよ。空が狭いじゃん」
 
 今度は周囲を見渡すように指差した。
 確かによく見ると、ここは街路樹に囲まれていて、空の見える範囲が狭かった。
 
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