月のあかり
「じゃあ、もっと空がよく見える所に行かないと」
すると今度は、満央のほうから軽くしがみつくように、ぼくの背中に手を回して来た。
「直樹さんの家に行きたい」
「ぼくの家?」
月が見たいと言うのに、ぼくの家に行きたと言うのは、随分と矛盾した発想だ。
「何で?」と聞くと、満央は「取り敢えずここは寒いじゃん」と言った。
確かに、ぼくの腕の中の彼女の身体は、何時間も家の外に佇んでいたせいか、すっかり冷えきっていて小刻みに震えていた。
「こんな夜中に出掛けて大丈夫なの?」
そうぼくが聞くと、満央は小さく舌を出してこう言った。
「うん、嶋さんの家に行って来るって、もうママには言ってあるから」
要領がいいと言うか、彼女の子供っぽい強引さにはお手上げだった。
「しょうがないなあ」
満央の企みにハマった気がして、ぼくは呆れたような言い方で格好をつけた。
でも内心は、こんな夜中まで身体を冷やしながらも、ひたすらぼくが戻って来るのを待っていてくれた彼女のことが、とても愛しくてたまらなかった。
満央を車に乗せると、ぼくの家に向かって街道を南下させた。