月のあかり
「安全運転だよっ」
しばらくしてから、そう満央に諭された。
直線に伸びる車幅の広い街道を、いつの間にか少しスピードを出し気味に走らせていたぼくは、徐々にアクセルを緩めて標識の規定速度へと減速させた。
やがて信号待ちで止まると、左の車線に白黒のツートンカラーの車が並んだ。
パトカーだった。
まさかぼくの車を、こっそり追尾していた訳ではないようだったが、あのままスピードを出して走り続けていたら、危うく検挙されていたかも知れない。
ふと横目でパトカーの方を見ると、満央の奇異な行動が目に入った。
「ブイ、ブイ」
そう連呼して、パトカーに向かってVサインをしていたのだ。
助手席の満央と並列して止まっているパトカーとは、1.5メートルほどしか離れていない。
運転席の警察官は一瞬こちらを見た後、無視するように前を向き直して、微動だもしなかった。
調子に乗った満央は、今度は助手席の窓ガラスに顔を付けるようにして、警察官に向かってこう言った。
「助けて下さーい。誘拐されてますぅー!!」
ガラス越しで、何を言っているのか聞こえてはいないだろうが、仏頂面で無反応だった警察官も、さすがにこちらを向いた。
「ちょっと、満央!!」
ぼくが取り乱したように制すると、満央はクスクスと笑った。