月のあかり
 
 ぼくはブラックのコーヒーを、あかりは少し躊躇ってからミルクティを注文した。
 喫茶店の中の照明は意外と明るくて、キャバクラの照度とは格段に差があった。
 しかも今度は隣に座るのではなく、向かい合った席に座ったあかりの顔を真っ正面からまじまじと見ると、薄暗い店内で見た印象とはまた違って見える。
 そしてこの状況下で急激に恥ずかしさが込み上げて、ぽーっと頬を赤らめているのは、ぼく以上にあかりのほうだった。
 
 沈黙のまま二人同時にカップを口に運んだあと、再び同時にカップをテーブルに置くと、「えへへっ」とあかりは照れ笑いを浮かべる。
 ぼくもつられて「ははっ」と硬直した顔で笑う。
 さっきまでキャバクラの店内でざっくばらんに話をしていたのが嘘のようだ。 まるで初デートで舞い上がっている中学生同士のカップルのように、二人の間には胸の焼け付くような緊張感が高まっていた。
 
 ぼくには聞きたいことが沢山あった。
 ぼくとあかりとは実は一回りも歳が離れている。
 いまさらどんな音楽が好きかだとか、好きなアイドルは誰だとか、どんなテレビが好きかなんて、ジェネレーションギャップを感じる質問をするつもりは毛頭なかった。
 かといって、彼氏がいるのかだとか、源氏名ではなく本当の名前は何ていうのかなんて、いきなり聞けたもんじゃないし、愚問だろう。
 いや、せめて彼氏がいるかどうかぐらいは店の中でお酒を飲みながら聞けたはずだが、その場では必ず「いない」と回答されるのが関の山だと思う。
 そう勘ぐると、やはり今こういう場でさり気なく訊いたほうが、あかりも本音を漏らしてくれるかも知れない。
 
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