月のあかり
カチャッ
「あれ‥‥?」
微かに鈍い金属音が聞こえた。
見ると不思議なことに、ぼくの手の中で南京錠は外れていた。
初めから南京錠の口がきちんと閉まっていなかったのか、もともと壊れていて、引っ張った拍子に開いてしまったのかは分からない。
ただ確実に言えるのは、これで屋上に入れるという全く期待もしていなかったことが、これで容易く可能になったということだ。
「なんだ、開いてるじゃん」
満央はそう言って立ち上がると、ぼくを押し退けて鉄柵の扉を開け、屋上までの残り十段足らずの階段を、また先に登って行く。
今度は駆け上がるのではなく、一段一段ゆっくりと踏み締めるような歩調だった。
階段の下から見上げると、屋上まで登り切った満央の後ろ姿は、夜風に吹かれてしなやかに髪がなびき、夜空をバックに神秘的なシルエットに浮かび上がった。
ぼくも後を追って屋上に上がると、住宅街とはいえ、街灯りが一望出来る見晴らしの良さに驚かされた。
この建物の住人でありながら、未知なる領域に足を踏み入れた気がした。
そしてもっと驚かされることがあった。
さっきまで暗雲で覆い尽くされていたはずの夜空が、雲が途切れるどころか、すべて吹き飛ばされたように消え去り、満天の星が降り注ぐようにきらめいていた。