月のあかり
「わかってないなぁー」
「何がさあ?」
質問の意味がよく理解出来なかったぼくが再び訊き返すと、満央はこう言った。
「満月じゃなくても、半月でも、それに三日月の時だって見えないところにも『月』はあるんだよ」
見えないところにも月はある‥‥‥
なるほど‥‥と思いながらも、まだぼくがキョトンとしていると、「つまり‥‥」と付け加えて彼女はこう言った。
「見えなくても、見えない光できっと照らしてくれる。見えない存在になっても直樹さんと私を見守ってくれているんだよ」
見えない存在になっても見守ってくれている‥‥
ぼくはその言葉を聞いて思った。
きっと満央は、亡き姉の舞への哀愁をダブらせているのだろうと。
満央は、階段の上がり口で立っているぼくに向かって、「ここに座ろうよ」と手招きした。
屋上の暗がりをよく見ると、満央の足元には、背もたれのない古びたブルーのベンチが置いてあった。
むしろ粗大ゴミとして誰かが《放置した》と言ったほうが正確かも知れない。
ぼくらは持っていたハンカチを敷いて、そのベンチに座った。
ぼくが右側で、満央が左側で。
「特等席だねっ」