月のあかり
 
 ぼくらは再び夜空を見上げた。
 夜空を見ながら満央に質問した。
 以前から訊いてみたいと思っていた事だった。
 
「ねえ、満央。 どうして『あかり』って名乗っていたの?」
 
 勿論、源氏名というのは分かっていたけど、ぼくはその由来に何かあるのではと思っていた。
 
「あっ、それね、幼稚園の頃からのあだ名なの」
 
 満央は忌憚なく答えてくれた。
 
「あだ名?」
 
「そう、幼稚園の演劇会で、お月さまの役をやったの」
 
「その時から『月』と縁があったんだね」
 
 ぼくは感心してそう言った。
 
「うん、どんなお話の劇だったかは忘れちゃったけど、私の役は夜道に迷った人を照らして助けてあげる役だったの」
 
「じゃあ役名は『お月さま』?」
 
 そうぼくが尋ねると、満央は首を振って、はにかんだ顔でこう言った。
 
「役名はね『月のあかり』」
 
 それを聞いて、何だかすべての謎が解けたような満足感に包まれた。
 
「そうか、だから『あかりちゃん』だったんだね」
 
 満央はニコリと微笑んだ。
 ぼくも微笑み返して空を見上げた。
 
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