月のあかり
艶やかな毛並みを撫でながら満央が猫に尋ねると、またも返事をするように長い声で鳴いた。
「にゃ〜あ」
「あはっ、この子、言葉が分かるみたい」
確かにぼくもそう思った。
ただし、この猫が何と答えているかは解読不能だけど。
それにしても冷静に考えれば、新宿からここまで数十キロの距離がある。
猫という動物の習性や行動範囲を鑑みれば、あの時と同一の猫とは考えにくかった。
もし本当にそうだとしたら、天文学的確率の奇跡だろう。
でも心のどこかで、そうであって欲しいという思いもあった。
一匹の猫にそんなドラマを感じてしまう。
『天文学的確率の再会』だなんて命名したドラマを。
「ねえ、直樹さん。この猫ちゃん飼おうよ」
満央はそう提案してきた。
「無理だよ」
「なんでぇ?」
首輪こそ付けてないけど、すでにどこかの飼い猫かも知れないし、そもそもこのマンションではペットを飼えない。
満央は納得がいかないようだったが、ぼく自身も現実の感覚に引き戻される思いでそう説明すると、彼女は悲しそうな表情で眉を下げた。
「じゃあ、せめて名前を付けようよ」
「うん、そうだね」
またいつどこでこの猫に会えるか分からないけど、それにはぼくも賛成した。