月のあかり
「ヒメってのはどう?」
と満央が言った。
まるでもう初めから決めていたかのような言い方だった。
「それって、やっぱりあの『舞姫』の姫ってこと?」
ぼくは、以前に満央が話していた姉の舞の名前の由来と、自分が付けられていたかも知れない『姫』という名前から発案したのだろうと思った。
「うん、それもあるけど、なんとなくいま『かぐや姫』を思いついたの」
「かぐや姫か‥‥‥」
満央と付き合うようになって、月に纏わる神話だとか伝説だとかの話題に溢れた時間を送り、彼女の影響で、ぼくはすっかり『月』フリークになっていた。
けれども月に纏わる日本の一番有名な昔話である『かぐや姫』(竹取物語)をすっかり忘れていたことに、意表をつかれた気がした。
「ところでこの子、メス猫なの?」
単純に疑問に思ってぼくが訊いた。
『ヒメ』という名を付けるなら、当然メス猫であることが妥当だろう。
満央は一瞬、思考が止まったようにキョトンとした。
「きっとメスだよっ」
「なんで分かるんだい?」
しつこく聞くと、満央は頬を膨らました。
「いいの、オスでもメスでもぉ」