月のあかり
「満央、身体の調子が悪いのかい?」
「‥‥ううん」
満央は否定をしたけど、ほんの一瞬だけ答えを躊躇したように見えた。
「少し眠っていい?」
セックスを中断させてしまったことに罪悪感を感じているのか、満央は遠慮がちにそう言った。
「疲れてたんだろ。少しじゃなくて、朝までゆっくり眠っていいよ」
ぼくがそう言うと、満央は安心したような表情で頷き、ぼくの腕枕で目を瞑った。
しばらくして、寝息をかき出した彼女の寝顔を見取ると、ぼくも目を閉じてすぐに微睡みの中へと埋もれた。
「にゃあ にゃあ」
まだ浅い眠りの浮き沈みを繰り返していたぼくの耳に、猫の鳴き声が聞こえた。
目を開けて壁の時計を見ると、寝付いてからまだ1時間程しか経っていなかった。
初めは満央の寝言かと思ったけど、彼女は相変わらず寝息をかいているだけだったし、猫の鳴き声は明らかに玄関の外から聞こえていた。
屋上にいたあの猫《ヒメ》が、ぼくの部屋の前まで下りて来たのだろうか。
「にゃあ にゃあ」
ぼくは、満央にしていた腕枕をそっと引き抜いて起き上がると、声の主を確かめたくて玄関に向かった。
猫の鳴き声は次第に強さを増し、寂しげで哀愁が滲んでいるように聞こえた。