月のあかり
「食パンぐらいしかないけど」
ぼくがそう言うと、満央は「他には?」と聞いて、勝手に冷蔵庫をまさぐり始めた。
「いろいろあるじゃん」
そういえば冷蔵庫の中には、昨日実家から送られて来た野菜やハムやらが、無造作に詰め込んであった。
満央は何かを思い立ったようにチラリとぼくに視線を向け、詰め込んであった食材を取り出した。
そしてキッチンの下の棚から包丁を見付けてサウスポーで握ると、レタスやハムを切り始めた。
ぼくもたまには自炊をするけれど、しばらく手入れをしていなかった刃の丸まった包丁に、さすがの満央も苦戦しているようだった。
「出来たよっ」
すでにお腹が一杯になって、ゴロゴロと寝そべっていたヒメと戯れている間に、満央の創作活動は完了していた。
お皿に盛り付けてあったそれは、有り合わせ食材で即席に拵えたとはいえ、彩りもきれいで美味しそうなサンドイッチだった。
「すごいじゃん、満央」
「ううん、本当はもっとソースとかに拘ったものを食べて欲しかったんだけどさ」
以前、彼女が言っていたように、バイトしているお店のサンドイッチよりも、美味しいものを食べさせたいという思いがあったのだろう。
でもぼくにとっては、今こうしてサプライズで作ってくれたサンドイッチのほうが、充分過ぎるくらい感激出来るものだった。
「美味しいよ!!」