月のあかり
 
 二人で頬張るように食べると、寝そべっていたヒメが起き上がって、おねだりするように前足を伸ばした。
 それはまるで、月に向かって腕を伸ばしたさっきの満央と、そっくりの仕草だった。
 
「ヒメも食べたいのぉ?」
 
 満央はパンを少し千切って、ヒメに与えていた。
 
「にゃあ」
 
「あははっ‥‥」
 
 
 
 ぼくはこの一瞬がずっと続けばいいと思った。
 
 幸福のデモンストレーション。
 
 愛を育む疑似体験。
 
 このひとときが物凄く大切な時間に思えた。
 
 やがて訪れる二人の近未来。
 
 確約された至福として目の前に映し出されている。
 
 きっとそうに違いない。
 
 ぼくは、ただそう信じていた。
 
 
 そう‥‥信じていた。
 
 
 
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