月のあかり
第7章 劇団 青月光
      12
 
 
「望月さんなら、だいぶ前に辞めましたけど」
 
 
 その言葉にぼくは愕然とした。
 満央が働いていた店の前で、ホウキとチリトリを持ったバイトの女の子は、そうぶっきら棒ないい方をした。
 そしてぼくとは目を合わせず、路上に落ちているタバコの吸い殻を一生懸命に拾っていた。
 
 
 満央と付き合い始めて半年が経ち、もうすぐ夏を迎えようとしていた。
 
 嫌々ながらも続けていた仕事がこのところ忙しくなり、一ヵ月ほど彼女とは会っていなかった。
 しかもこの2週間ぐらいは、つい連絡さえ怠っていたから、いい加減彼女を怒らせてしまったんじゃないかって心配していた矢先だった。
 
 そんな折り、彼女のバイトしているお店の近くに寄ったぼくは、突然顔を出して驚かせてやろうなんて、子供地味た悪戯心で訪れたのだった。
 
 路上駐車していた営業車に戻ると、慌てて満央にメールをした。
 仕事が忙しかったとはいえ、連絡を途絶えさせていた事を素直に謝る言葉と、バイトを辞めてしまった事への心配の言葉をうまく要約して、彼女の携帯に送信した。
 ぼくはそのまましばらく携帯を握り締めていたが、そう都合よくすぐに返信が来るわけもなく、取り敢えず携帯を仕舞って次の営業先へと車を走らせた。
 
 重苦しい梅雨空の切れ間から陽の光が差し込むと同時に、ぽつりぽつりと雨も落ちてきた。
 
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