月のあかり
そんな心の渇ききった折り、まるで天から潤いの注入を促すように10年来の友人から連絡があった。
そして「たまには飲みにでも行こう」なんておあつらい向きのお誘いが来たものだから、乗らない訳にはいられなかった。
ぼく自身、軽い現実逃避を心の何処かで求めていたし、それに準ずるような気分転換を模索していたのかも知れない。
それ以上の脈絡もなければ、過剰な期待感があった訳でもない。
だが今まさに、北アフリカのサハラ砂漠を彷徨する流浪のジプシーの目の前に、極楽浄土のようなオアシスが突然現れた奇跡のごとく、あかりはぼくの前に舞い降りた、神聖な天使そのものだった。
「お仕事大変ですか?」
あかりが訊いてきた。
つい3日前にもお店の中で客として飲みながら、同じような会話をした記憶があった。
けれど今度は彼女の聞き方も、ぼくの答え方も全く違い、お互いにより親しく近付き知り合いたいという情欲が、微妙な語尾や口調にも明確に表れ満ち溢れていた。
「あ、いいもの見せてあげるよ」
ぼくはカバンに入れてあったある道具を取り出した。
「え、なになに?」
あかりはぼくに手渡されたものを摘み、珍重な骨董品も扱うように眺めている。
それは鉄の棒の先にパチンコ玉と同じ鉄の球体が付いている『ゲージ棒』というやつだ。
「ねぇ、これ何に使うの?」