月のあかり
いつかもあった天気雨。
ぼくは満央の顔を思い浮べつつ、フロントガラスに光る小さな雨粒を数えていた。
ほどなくして車内にメールの着信音が鳴り響いた。
待ち侘びていた満央からの返信だった。
『直樹さん、お久しぶり。劇団に復帰したのでバイトは辞めちゃったんです。』
それはどこか余所余所しく、あまりにも無機質で簡素な文章だった。
連絡を取っていなかったこの2週間で、彼女の身の上や心境に何らかの変化があったのだろうか。
《劇団に復帰》という彼女の言葉が憂欝という吹き矢の針となって、ぼくの脆弱な小心癖をチクチクと刺激した。
『どうしたの? いまどこにいるの?』
明らかに動揺した様子が悟られるような文章で、再び満央に送信した。
けれども運転し続けたり、コンビニのお弁当で昼食を取る車内での時間は虚しく経過し、その後2時間経っても満央からの返信は来なかった。
環状線や産業道路を行ったり来たりしながら、気が付くと以前満央と来たことがあった街道沿いのパチンコ店の前に来ていた。
ぼくの勤める会社は、このお店とは取引や付き合いがない。
例えアポなしの飛び込み営業を掛けたところで、受付カウンターの女性スタッフに、ニッコリ笑顔で門前払いを食らうのが関の山だろう。
しかし暇潰しと言っては傲慢だが、一応仕事として営業を掛けるつもりで、久しぶりに入ってみることにした。
相変わらず店内は大勢のお客でごった返していて、パチンコ台もパチスロ台もほぼ満席状態だった。
床に積まれたドル箱に躓きながら通路を抜けると、その先に開けたフロアに見覚えのある後ろ姿があった。