月のあかり
 
 すらっとしたスタイルはぼくより背が高く、今時の若者らしいファッションを着こなしている。
 片手に缶コーヒーを二つ携え、小粋にくわえたタバコに火を付けると、カウンター前のフロアからスロットコーナーへの通路へと歩いて行く。
 
 そう、ヤツだ。
 
 確かこの場所で数ヵ月前にぼくに握手を求めてきた高圧的で横柄な男。
 脳内の『高梨』という名前のパズルがすぐにぴたりと連結した。
 ぼくは反射的に彼の姿を追った。
 どうやら彼はこの店の常連客であり、スロットコーナーは彼の根城なのだろう。
 高梨はコーナーの角台に座ると、隣の台で遊技をしている女の子に持っていた缶コーヒーを手渡した。
 笑顔で受け取る女の子。
 
 ぼくはその横顔を見て自分の目を疑った。
 
 
『ま、満央‥‥‥』
 
 ぼくは足が竦み、軽い目眩を覚えると、額に手を当てて遠退く意識を必死で堪えた。
 そしてなぜ満央がこの場所にいるのかが理解出来ず、今度は錯乱しないよう、こめかみに手を当てて強く押し、「冷静を保て」と自分の意識に語り掛けた。
 
 ぼくは深呼吸を2度してから、並んでスロット台を遊技する二人にゆっくりと近付いた。
 
 
「満央」
 
 彼女の名前を呼び、肩をポンと叩くと、満央はびっくりしたようにこちらを向いた。
 
「直樹さん‥‥‥」 
 
 満央につられるように、隣の高梨もこちらを向いた。
 満央はほんの一瞬だけバツが悪そうな表情を浮かべたように見えた。
 
 けれども、まるでそれを白いクレヨンで強引に塗り潰すように、不自然な笑顔を作ってみせる。
 
 数秒の沈黙の後、ぼくは無意識に回れ右をして通路を抜け、気が付くと足早に店の外へと飛び出していた。
 
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