月のあかり
満央はぼくの後を追って走って来ると、車に乗ろうとするぼくの腕を強く引っ張った。
「直樹さん! ねえ、誤解しないで!!」
ぼくは「なにが?」と冷たい言い方で返した。
「さっきまで、劇団でやってるお芝居の稽古があったの」
「それとここにいるのと、どういう関係があるんだい?」
少し強い口調で言った。
満央と付き合ってから、こんな言い方で彼女に詰め寄ったのは初めてのことだった。
悲観的妄想でフリーズしたままの思考は、すでに嫉妬の炎で荒れ狂っていたのだ。
客観的に見たら、きっとぼくは大人げない態度を剥き出しにしている修羅の形相だろう。
それは女々しく気弱な男の裏返しな反応だった。
ふと冷静に立ち返ってそんな自分に気が付くと、なおさら愚かな自己嫌悪の思いに打ち拉がれた。
「どうしたんですか?」
甲高い男の声がした。
いつの間にか、高梨も満央の後を追って店の外へと出て、ぼくらの側へと歩み寄っていた。
「満央ちゃん、彼氏に話してなかったの?」
ぼくと満央の間に横たわる硬直した空気に割って入るように、高梨がそう言った。