月のあかり
「‥‥うん」
満央は振り返って、高梨の問い掛けに小さく頷いた。
「ぼくが誘ったんです。また劇団で演劇の勉強でもしないかって」
高梨は辣腕弁護士のように満央の弁護を始めた。
彼が言うには、都内にある稽古場から満央を車で家に送る途中だったらしい。
「それでちょっとだけスロットでもしないかって、ぼくが誘ったんです」
彼はそう言葉を続けて、理解を求めるような視線を投げ掛けてきた。
そして自分は常連だけれども、今日はたまたま同乗していた満央を、偶発的に誘っただけだと強調していた。
高梨のもっともらしい弁解演説が終わると、満央はぼくのスーツの袖を引っ張り「ごめんなさい」と小声で呟いた。
でもぼくにとってはバイトを辞めてしまい、それを黙っていたことについて彼女が謝っているのか、それとも、ぼくの知らないところで他の男と『密会するように遊んでいた』ことに対して謝っているのかが判別出来なかった。
勿論、ぼくが機嫌を損ねたのは後者が理由であり、『選りに選って高梨なんかと‥‥』という思いがすべての根源だったが、そのこと自体を彼女が理解しているのかさえも疑わしく思えてしまう。
ただそんな事態に陥ったのも、元を辿れば忙しさを言い訳に、彼女への連絡やコミニュケーションを怠っていたぼく自身にも大きな非がある。
その事実を見つめ直すと、一方的に彼女を責めるわけにもいかなかった。
「ねえ、直樹さんも一緒にやろうよ」
そう言って、満央はぼくのスーツの袖をさらに強く引っ張った。