月のあかり
 
 確かに歯医者さんが使うデンタルミラーか何かと、その雰囲気や形状が似ているかも知れない。
 
 そんな小道具をネタにしたぼくの仕事の話が接ぎ穂となり、休日の過ごし方に話題が変わった。
 
 
「じゃあ嶋さんはプライベートでもパチンコとかしてるんですか?」
 
「いや、最近はあんまりしないね。業界の裏も表も知っちゃうと、何だか馬鹿馬鹿しく思えてくるしね」
 
「そうなんですか」
 
「あぁ、そんなもんだよ」 
 
 ぼく自身は仕事とプライベートが混同するようなことはしたくなかった。
 訊くとあかりは、パチンコなんて生まれてこのかた一度もやったことがないと言うし、興味もそれほどないようだ。
 それにこういったギャンブルは深みにハマると依存症なんかになる恐れもあるから、ヘタに彼女に興味を持たせないほうがいいのではと思い返し、瞬時に思慮を巡らせる中で、こんな話題を振ったことに少し後悔した。 
 ぼくは話題を変えようと、逆にあかりに即興で質問した。
 
「あかりは何かスポーツとかしないの?」
 
「う、う〜ん‥‥」
 
 ぼくの問い掛けに、眉間に小さくシワを寄せ、小首を傾げて思案するその仕草がなんとも愛らしかった。 
 そして暫しの沈黙のあと、ようやく開いた口から出た回答はこうだった。
 
 
「‥‥‥ボウリング」
 
 
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