月のあかり
 
 ちょっと苦し紛れに引っ張り出した、思い付きの言葉に聞こえたけど、あかりはテーブルの脇から腕を出して、自信有り気にボウリング玉を投げるようなモーションを振って見せた。
 
「マジで? ぼくもボウリング得意なんだよ」
 
 ハッタリではなかった。実際に以前勤めていた会社では、社内のボウリング同好会に入っていて、調子の良いときは200近くのスコアを出したこともあった。
 
「あはっ、そうなんですか?」
 
「まあね。あかりは平均スコアとかどれぐらいなの」 
 唐突な聞き方をしてしまった。《平均スコア》なんて気にして覚えてる人は少ないと思う。
 ところがあかりは意外な返答を聞かせてくれた。
 
「えーと‥‥ たぶん100ちょっとはいつもいくと思います」
 
「え!? 上手いほうじゃん」
 
 お世辞ではなかった。
 男性でも下手な人は100いかなかったりするから、男性に比べ腕力や握力の低い女性で100を越えるスコアをコンスタントに出せれば、素人としては比較的上手なほうだろう。
 
 
「じゃあ今度一緒にボウリングしようよ」
 
 用意周到に計算した台詞ではなく、何だかスッと素直に誘いの言葉を掛けることが出来た。
 
「え、え、本当ですか? それって私を誘ってくれてるんですか?」
 
「もちろん」
 
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