月のあかり
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あの劇団に訪問して以来、毎晩のようにためいき色の夢魔にうなされ、精神状態は疲労困憊を窮めていた。
日々様々な想念が混沌と鬩ぎ、大小無数の底無し沼が形成されてゆく。
心の湾曲が生み出した底無し沼。
ぼくは一歩踏み出す度に足を取られ、その沼で溺れ掛けていた。
高梨の存在。
満央の夢。
あの切なげな眼差し。
悲鳴を発して暗黒に吸い込まれる満央の姿‥‥‥。
やっとの思いで沼から這い上がり、泥土に這い蹲うぼくの頭上には、朧に霞んだ月に向かって雲の上に摩天楼が聳えていた。
あの場所まで登れば、ぼくは自分自身を認めることができ、すべてのわだかまりを払拭して、再び満央と寄り添えるのだろうか?
その《相応しい存在》として。
しかし、ぼくという脆弱な精神のランナーが、足を引きずり辿り着いた場所は、二人の時間の《凍結》という、氷河に閉ざされた最果ての僻地だった。
※
「もしもし、直樹さん」
幾つかの言い訳じみた煮え切らない言葉をメールで交わした後、微細なニュアンスが伝わりにくい活字のやり取りに思い余ったのか、満央は直接電話で尋ねてきた。
「ねえ、本当に‥‥本当にそれでいいの?」